SRHRの視点から考える「プレコンセプションケア」の課題
- 2月27日
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「プレコンセプションケア」という健康教育が日本でも政策に位置づけられたことをご存知でしょうか。これは、妊娠前から心身を整え、将来の妊娠・出産に備える健康管理への理解増進に向けた国の施策です。ここでは、生活ニューコモンズ「プレコンセプションケア取材班」の調査まとめを参考に、日本のプレコンセプションケアの課題についてWHO(世界保健機関)との比較から整理していきます。
日本政府が定めるプレコンセプションケアとは
子ども家庭庁は、プレコンセプションケアについて 「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」概念であるとプレコンセプションケア推進5か年計画に明記しました。その目的は「妊娠・出産に備えるライフデザイン支援」であり、若い世代に向けた生活習慣の改善や栄養管理、BMIのコントロールなどについて知ってもらおうとする取り組みです。
「将来設計」や「将来の健康」と表現されてはいるものの、学習する実際の内容は、将来の妊娠の成立に重点が置かれています。本人の選択やライフプランよりも、妊娠に向けた準備に重きが置かれているのが特徴です。
WHOが示すプレコンセプションケア
一方、WHOはプレコンセプションケアを 「妊娠前の女性とカップルに対し、生物学的・行動学的・社会的な健康介入を行うこと」 と幅広く定義しています。その目的は「母子の健康を改善すること」ですが、注目すべきは 妊娠を予定しているかどうかに関わらず、すべての人に適用される点です。例えば、以下のような問題を含めて対応します。
栄養、慢性疾患、メンタルヘルス、暴力被害など包括的な健康課題に対応
安全な性行動や避妊、性感染症予防も対象
ジェンダー平等や権利の保障を重視
つまりWHOのプレコンセプションケアは、妊娠の有無を前提にせず、誰もが健康に生きるための基盤づくりとして位置づけられています。
比較して見える課題
WHOとの比較から、日本のプレコンセプションケアには次のような課題が見えてきます。
✔人権・自己決定の視点の不足
「将来の妊娠」を前提にしているため、「産むかどうか」を自分で決める権利が見えにくくなっています。
✔ジェンダー観の偏り
対象が若い女性中心とされがちで、男性や多様な性の人々へのアプローチは弱いままです。
✔多様性の欠如
結婚する/しない、子どもを持つ/持たない、誰とパートナーシップを築いていくかなど、ライフスタイルや家族の多様性が前提とされていません。
✔社会構造や環境因子に対する視点の欠如
経済的困難、教育、就労、ジェンダー不平等、差別などへの視点が弱く、個人の生活習慣や努力に責任を求めるような内容になっています。
✔排除やスティグマを助長しかねるリスク
「健康な女性が健康な子どもを産む」ことに価値をおくことで、そうでない人や妊娠を望まない人をリスクや問題とする見方、また、妊娠・出産できない場合や不妊治療を受けている人を追い詰めたり、スティグマ化しかねない表現になっています。
✔包括的性教育が基盤にないこと
WHOはプレコンセプションケアの一部に、年齢に応じた包括的性教育の提供を掲げ、安全な性行動や避妊教育を重視していますが、日本では「将来の妊娠」に偏り、避妊や中絶、自己決定、家族の多様性といった知識の保障が十分ではありません。
SRHRの視点で考える
プレコンセプションケアは、本来「妊娠する人の健康のため」だけでなく、すべての人が自分のからだと人生を自分で選べるようにする権利(SRHR: Sexual and Reproductive Health and Rights)を基盤に考えるべきです。
自分のからだ、人生について自分で決められるという人権が尊重されること
産む権利だけでなく、産まない権利についても保障(安全な避妊や中絶へのアクセス)
ジェンダー平等と暴力からの自由
こうした視点を含めてこそ、プレコンセプションケアは「次世代のための妊娠準備」ではなく、今を生きるすべての人の健康支援として機能します。
日本の政策も、将来の妊娠に限定するのではなく、SRHRの視点を取り入れ、誰もが自分らしい人生選択をできる健康教育へとシフトしていくことが求められます。
<参考資料・サイト>


