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包括的性教育が教育システムに統合されるには? ~低・中所得国における課題と鍵を探る研究より~

更新日:5月27日

包括的性教育は、若者の性と生殖に関する健康(SRH)を促進するための重要な教育アプローチとされています。しかし、特に低・中所得国では、教育制度への統合に際してさまざまな障壁が存在しています。

マリズガニ・ポール・チャヴラらによる論文「Factors influencing the integration of comprehensive sexuality education into educational systems in low- and middle-income countries: a systematic review(低・中所得国における包括的性教育の教育制度への統合に影響を与える要因に関するシステマティック・レビュー)」(2022年)では、包括的性教育の導入に影響を与える因子を明らかにするため、2010年から2022年8月までに発表された442の論文の中から、34件を精査しました。


その結果、包括的性教育の統合には、社会的、経済的、文化的要因を考慮し、地域社会や教師の関与、政治的・財政的支援が不可欠であることが明らかになりました。以下に、導入を促進する要因(促進因子)と、妨げになる要因(阻害因子)をまとめます。


包括的性教育統合の促進因子

・若者の性と生殖の健康(ASRH)に関する問題意識の高まり 

→ 地域社会において、若者の性と生殖の健康が重要な課題であるという認識が広まることで、包括的性教育の必要性が理解されやすくなります。


・教材や教育内容の質の向上 

→ 地域の文化や背景に即した、質の高い教材を用いることで、教育への理解や受容が促進されます。


教員の研修制度やサポート体制の整備 

→教員が安心して授業を行えるよう、体系的な研修と継続的なサポート体制が整備されることが重要です。


・包括的性教育の効果に対する信頼

→ 教師や生徒が実際にその効果を実感することで、授業への前向きな姿勢や参加意欲が育まれます。


・ステークホルダーとの協働的な取り組み 

→教育関係者や地域住民、保健分野の専門家などとの連携が、教材、人材、資金といった資源の確保につながります。


包括的性教育統合の阻害因子

・社会的・文化的抵抗や誤解 

→ 性に関する話題がタブー視されやすく、「西洋的価値観の押しつけ」や「性の放任」と誤解されることで、地域や保護者からの反発を受けやすくなります。


・ステークホルダーの関与不足 

→ 教育政策や教材開発の段階で現場や地域の意見が取り入れられないと、実態に合わない内容となり、導入が困難になります。


・政策の不明確さや一貫性の欠如 

→ 包括的性教育に関する明確な方針やガイドラインが整備されていない場合や、政治的意志の不足が実施の妨げとなります。


・人的資源・資金・教材の不足

 → 研修を受けた教員が不足している、教材が整っていない、予算が不十分といった状況が、導入の障壁となっています。


包括的性教育の効果に関するエビデンスの不足 

→特に政策決定者や保護者に対して、包括的性教育の有効性を裏付ける調査や報告が不十分であると、導入が後回しにされやすくなります。


包括的性教育を教育システムに統合することは、単なる教育内容の改訂にとどまらず、社会全体の価値観や制度の見直しを含む、非常に複雑で多岐にわたるプロセスとなります。


このレビューでは、十分なリソースをもとに、地域社会と協力し、様々なステークホルダーと協働しながら、文化や価値観に配慮した方法で進めることが大切だと改めて強調されています。


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