包括的性教育は、子どもや若者にどのような影響を与えるの?
- Asuka Someya
- 5月9日
- 読了時間: 4分

避妊や性感染症の予防だけが性教育ではありません。包括的性教育は、ジェンダー、人権、関係性など、性にまつわる多様な側面を扱う教育アプローチとして、世界中で注目を集めています。最近ではその効果を示す研究も増えており、子どもや若者の成長にどのような影響を与えるのか、実証的に検討されるようになっています。
とはいえ、文化や地域によって受け入れの差が大きく、どこでも同じ内容を提供することの難しさも指摘されています。そうした問題意識から、ウン・ジュ・キムらの研究チームは「A Meta-Analysis of the Effects of Comprehensive Sexuality Education Programs on Children and Adolescents(包括的な性教育プログラムが児童・青少年に及ぼす影響のメタ分析)」(2023)を発表しました。メタ分析とは、集めた研究の結果を統計的に数値でまとめて、全体としての効果を測る研究方法です。
2011年から2020年にかけて発表された34件の論文をレビューした結果、包括的性教育について主に以下の知見が得られました。
✓研究数の増加
→2009年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表し、2018年に改訂されたことを契機に、包括的性教育に関する研究が急増しました。背景には、性感染症やHIVなどの公衆衛生課題への対応が求められていることもあります。
✓中高生が主な対象
→分析対象として最も多かったのは中学生・高校生で、最も多かった年齢層は10〜19歳の若者でした。これらの対象者は、自分のセクシュアリティの探求を始める時期であり、また学校を通じて教育が届けやすい年齢層です。この時期の性教育は、効果が特に高いとされています。
✓介入期間の課題
→多くのプログラムが1〜2年未満であり、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)※1が推奨する3年以上の継続的な教育に比べて短いことが分かりました。
※1 アメリカ疾病予防管理センターでは、小学校高学年〜高校まで、少なくとも3年間かけて重要な概念を発達段階に応じて教えることを推奨しています。(詳細は、アメリカ疾病予防管理センターがアメリカの性教育団体(SIECUS)と連携して作成した包括的性教育のガイドラインを参照)
✓成果が大きかったプログラムの特徴
→効果が高かった事例としては、ピア(仲間)教育による知識の向上や、6年間にわたる継続的な教育などが挙げられました。これらは、単発でなく長期的・対話的な学びが有効であることを示しています。
✓最も顕著な効果は「認知の向上」
→包括的性教育の効果の中で最も大きかったのが、認知でした。ここでの認知とは、性に関する知識の理解や整理、判断力の向上を指します。認知の向上は、行動や意思決定、責任感にも波及し、リスクのある性行動の予防に役立つことが示されました。
✓教育の継続性が鍵
→包括的性教育には、初交年齢の遅延や望まない妊娠の予防といった行動面への好影響も見られました。ただし、こうした効果を維持するには、個別の取り組みだけでなく、国や地域レベルでの継続的な制度設計が重要となります。
✓価値観の形成に焦点を当てた内容
→多くのプログラムは「性の権利」「健康と他者への尊重」「ポジティブなセクシュアリティ」「対等な関係性」など、価値観や態度の形成を重視していました。
✓一貫性の不足という課題も
→一方で、教育内容が断片的で、プログラム内容に一貫性がないという課題も浮かび上がりました。今後は、より体系的で継続的な教育プログラムの開発が求められます。
この研究では、包括的性教育が子どもや若者の性の理解と健全な発達を支える、効果的な教育アプローチであることが明らかになりました。しかし、その効果は文化や社会的背景、教育内容の質・量によって左右されることも見過ごせません。
包括的性教育の導入や設計にあたっては、長期的な視点と多様なニーズへの配慮が不可欠です。この研究は、教育政策の立案やプログラム設計にあたって、科学的な根拠として参考になるでしょう。