性教育に“プレジャー”の視点を取り入れる~包括的性教育の質と包摂性を高める新たな視点~
- Asuka Someya
- 5月9日
- 読了時間: 3分
性教育と言えば、避妊方法や性感染症の予防といった「リスク回避」の側面がイメージしやすいかもしれません。しかし最近では、安心できる関係の中で性を楽しむことや、自分の望みや境界線を尊重する力を育むことも重要だとされてきています。
この視点を象徴するものとして、世界性の健康学会(WAS)の「セクシュアル・プレジャー宣言」(2019)があります。
ここでは、プレジャー(性的な心地よさや充足感)は性の健康にとって不可欠な要素であり、すべての人にとっての基本的な権利だとされています。日本語では「快楽」と訳されることも多いですが、プレジャーとは性をポジティブに捉え、安心して自分らしく楽しむための感覚や視点を指します。
クリステンマークらは、「Integrating Sexual Pleasure for Quality & Inclusive Comprehensive Sexuality Education(質の高い包括的性教育のためのセクシュアル・プレジャーの統合)」(2021)において、包括的性教育にプレジャーの視点が統合されることで以下の6つの効果が期待できることを明らかにしました。
包括的性教育にプレジャーの視点が取り入れられることにより期待される効果
✓リスク回避行動を強化:
若者の性に対する前向きな態度を育み、自己決定や関係性の質を高めます。その結果、避妊、性感染症の予防、暴力防止といった従来のリスク回避行動の強化にもつながる可能性があります。
✓健全な人間関係の構築:
思春期に、性表現や人との関係の中で「性の主体性」を見失いやすい若者(特に女の子)にとって、プレジャーや性表現を肯定的に学ぶことは、自分らしい人間関係を築く力を育み、生涯にわたる健全な親密さの基盤につながります。
✓性の多様性の尊重:
多様な性のあり方や経験を肯定しやすくし、誰もが尊重される包摂的な社会づくりに繋がります。これは、ジェンダー不平等な価値観の克服にもつながります。
✓性的権利の行使:
心地良く安全な性の経験を得ることも人権の一つです。プレジャーの視点をもつことで、すべての人が自らの性を尊重しながら自由に表現できる権利を学ぶことができます。
✓エンパワーメント:
自分の性を尊重し、健康的な性の選択をできるようになることで、自信やエンパワーメントを高めます。
✓性に基づく暴力の予防:
プレジャーを学ぶことで、性に対する恥や罪悪感の意識をなくし、性別平等を促進します。これにより、性暴力の予防や健全な関係性の形成につながります。
このように、プレジャーの視点が含まれることで、健康的な関係性の構築が促進され、すべての人を包摂するエンパワーメントと性的権利の支援につながることが分かりました。
世界保健機関(WHO)や国際家族計画連盟(IPPF)などの国際機関も同様に、性教育にプレジャーを含める重要性を認識していますが、現実の教育現場では、文化や宗教的背景、社会的タブーなどの障壁が存在するのが現状です。
プレジャーを性教育に取り入れることでの利点が広く認識され、性教育の政策や実践において、この視点がより一層取り入れられることが期待されます。