世界各国で、包括的性教育はどのように取り組まれているの?
- Asuka Someya
- 5月9日
- 読了時間: 4分
更新日:5月13日
1994年の国際人口開発会議(ICPD)では、思春期の若者が責任ある意思決定を行い、自らのセクシュアリティに対して前向きに向き合えるようにするため、より広い視点で性の健康に投資する必要性が強調されました。
しかし実際には、避妊へのアクセス不足、安全でない中絶、ジェンダーに基づく暴力など、若者たちは様々な課題に直面しています。
これらは日本に限った問題ではなく、世界各国でもさまざまな背景や事情があります。今回は、モニカ・アルバート・セカールらによる論文「Understanding Comprehensive Sexuality Education: A Worldwide Narrative Review(包括的セクシュアリティ教育を理解する:世界的なナラティブ・レビュー) 」(2024)をもとに、各国の取り組みや課題を紹介します。
ちなみに「ナラティブ・レビュー」とは、あるテーマについて、過去の研究でわかっていることや残された課題を、著者自身の視点から整理・考察したまとめのことです。そのテーマの背景や全体像を理解するうえで役立ちます。
西洋諸国の取り組み
✓西ヨーロッパ:
スウェーデン、ノルウェー、オランダなどでは50年以上前から包括的性教育が導入されており、同意・性自認・人間関係などを早期から学ぶカリキュラムが整備されています。これにより、10代の妊娠率や性感染症の罹患率の低下が確認されています。
✓アメリカ:
包括的性教育を義務化している州もある一方で、禁欲教育(結婚するまで性行為をしないと誓わせる自己抑制を求める性教育)を重視する州もあり、州ごとに教育内容に大きな差があります。
✓カナダ:
公立学校では包括的性教育が基本ですが、若者が避妊具や性感染症検査にアクセスしにくいという現実的な課題も指摘されています。
アジア太平洋地域の取り組み
アジア太平洋地域では保守的な価値観が根強く、未婚の若者が性や生殖に関する情報・支援を受けにくい傾向があります。
✓バングラデシュ:
政策には包括的性教育の要素はあるものの、既婚の若者向けが中心で、未婚の若者への支援は限定的です。
✓モンゴル:
性教育は必修ですが、内容は包括的とはいえず、教員研修や予算の不足が課題となっています。
✓ネパール:
カリキュラムに性教育は含まれていますが、異性愛中心で、取り扱う内容も限定的です。
✓中国:
禁欲を重視する傾向があり、最新の教育戦略にも包括的性教育は盛り込まれていません。女性のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)に関する知識も十分とは言えず、オンライン教育を希望する若者が多いとされています。
✓パキスタン:宗教的・社会的制約が大きく、包括的性教育のカリキュラムは存在しません。若者の性に関するデータも非常に限られています。
✓スリランカ:学校内外でのSRH教育や若者向けカウンセリングが実施され、政策の整備も進んでいます。
✓インド:文化的タブーと反対意見の影響で包括的性教育の導入が進まず、6つの州で性教育が禁止されています。国としての統一的な政策がないため、地域間で情報格差が生まれています。
国際的な課題と提言
世界全体で包括的性教育の重要性が増している一方、特にアジア諸国では政治的な意思や文化的背景がその導入を妨げていることが明らかになりました。論文では、以下の3つの提言がなされています:
1. 政策と法制度への統合
包括的性教育を公衆衛生と社会の長期的な発展の一環として、政策や法律に明確に位置づける必要があります。政治リーダーの意思が重要です。
2. 早期導入の重要性
幼少期から発達段階に応じた性教育を行うことで、子どもたちが自他を尊重する力や、自ら判断する力を身につけることができます。
3. 統合的なアプローチ
学校・家庭・地域が連携して性教育を支えることで、教育の効果を高め、偏見や差別意識を和らげることができます。
このように、包括的性教育の導入には各国の文化的・政治的背景が大きく影響しており、実践のあり方もさまざまです。しかし、どの国においても、若者の権利と健康を守るためには、教育現場を超えた包括的な取り組みが求められています。