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性的同意をどう教える?国際基準から考える生命の安全教育の課題


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 2023年の刑法改正で、日本の法律にはじめて「性的同意」という考え方が明記されました。これまでの法律では、「暴力や脅しがあったかどうか」が中心でしたが、これからは「相手の同意があったかどうか」が判断の軸になります。この法改正は、社会全体に「性は合意のもとで行うもの」という大きなメッセージを示した出来事です。では、この変化を教育の現場にどう活かすことができるのでしょうか。


刑法改正の背景

これまでの刑法では、性犯罪の成立要件は「暴行・脅迫の有無」が重視されていました。被害者が抵抗できなかった場合や、信頼関係を利用した行為は「不同意」であっても罪に問えないことが多かったのです。  こうした不備は国際的にも批判され、被害者支援団体や市民の声が後押しとなり、2023年に刑法が改正されました。新しい基準では「同意があったかどうか」が大切な判断の軸になります。


性的同意とは何か

性的同意とは、単なる「Yes/NO」を確認する行為ではありません。性的同意は、性行為が何かについて十分に知っていること、そして行為の結果どういった可能性やリスクがあるのかについても知っていること、さらに性行為はしないという選択肢についても知っていることが、同意の前提に必要です。さらに、性的同意の4つの原則についても理解をすることが大切です。


✔対等性

力関係や立場の違いに左右されず、対等な立場であること

例)先生と生徒、上司と部下など関係性に大きな力の差がある場合「自由な同意」とは言えません。


✔ 明確性

あいまいではなく、はっきりと積極的な気持ちが示されていること

例)沈黙や曖昧な態度は同意ではありません。明確にわかる言葉や態度で「したい」という気持ちを積極的にもっていることが必要です。


✔ 非強制性

脅しや圧力、金銭、依存関係などにより、強制されていないこと

例)断ったら嫌われるかも、お金を払ってもらっているから断れないと感じてしまう状況では、本当の同意とは言えません。


✔ 非継続性

一度同意しても、その後もずっと続くものではないということ

例)前に同意したから今回もOKだろう、ということはありません。毎回、そのときの気持ちに応じて改めて確認する必要があります。どのタイミングでもいつでもNoという権利があります。


今回の法改正では、性的同意年齢が13歳から16歳に引き上げられました。つまり、16歳になると、法的には性行為について同意する能力がある年齢だとみなされるということです。


日本の「生命の安全教育」の現状と課題

文部科学省は2022年から「生命(いのち)の安全教育」を推進しています。主に、SNSトラブルや性被害を防ぐ内容を学びます。例えば、「水着で隠れる部分は他の人に見せたり触らせたりしないようにしよう」「いやなときは、相手と距離をおいてみましょう」など、防犯のためのルールを学習するような内容が中心です。

 さらに、「性的同意」という言葉は明記されておらず、自分の気持ちを表出したり、相手の同意を確認するといった双方向的なライフスキルの学習も十分ではありません。

 本来、水着で隠れる部分だけでなく、どの部分もすべて大切なからだであること、そして、自分のからだのことを決められるのは自分である、というのが人権を軸にした教育です。「生命の安全教育」には、このような「からだの権利」や自己決定といった人権の視点が不足していることが分かります。被害に遭わないための教育にとどまらず、人権をベースに「自分で判断する」「相互に伝えあう」「対等な関係を築く教育」へと発展していくにはどうしたらよいでしょうか。


国際基準との比較:NSESの場合

 アメリカのNational Sexuality Education Standards(2020年改訂版)では、年齢に応じて段階的に「同意」とそれに関連した権利について学ぶことが明確に示されています。

  • 未就学児

・自分のからだは自分のもの

・自分のからだをどう触れられるかは自分が決めてよいという権利を知る


  • 小学校低学年 

自分の体に何をしてほしいか、してほしくないかを自分が決めて、伝えること

=「身体の自律性 (bodily autonomy)」について知る


  • 小学校高学年

・性暴力、セクシュアルハラスメント、DVを定義し、それらがなぜ有害でどんな影響を及 ぼすかを理解する


  • 小6~中1

・同意の4つの原則を理解する

性的同意は、すべての人が学び、練習する必要のある重要なスキルであること

・スキル(skill)という言葉が使われているのは、同意を求めたり、それに答えたりするこ とは、練習によって身につけられる技術であるためだと明記されています


このように、自分と相手を尊重しあう力について、幼少期から少しずつ積み重ねながら学習し、最終的には性的同意についてスキルの獲得を目指すカリキュラムが存在します。

(※ここで紹介する段階的学習の目安は、米国のGrade表記を日本の学年制に置き換えて整理したものです)


もっと人権を軸にした性的同意の学習機会を

 刑法改正により「性的同意」の重要性について社会的合意形成がなされはじめた今、16歳を性的同意ができる年齢とみなすならば、同意の前提となる性的接触、性行為とその行為の結果について正しく知ること、さらに性的同意を確認しあうためのスキル、コミュニケーションを安心して学べることがすべての子どもたちに必要な学習ではないでしょうか。

 そして、忘れてはならないのは人権の視点です。自分や相手のもつ権利について知り、そして自分で自分のことを決められる力が育まれることは、性被害の予防を超えて子どもたちのウェルビーイングにつながることが期待できます。


<参考資料・サイト>


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