包括的性教育を行う教師の葛藤とその背景とは?
- Asuka Someya
- 4月30日
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国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2009年に、若者の年齢や文化に応じた正しい科学的知識と技能を身につけることで、適切な性行動に関して責任ある選択ができるようにするため、「包括的性教育」を提唱しました。
性教育を効果的に実施するためには、教員が性教育を行う自信がないことや、教師自身の価値観との折り合いなどの課題があります。
このような包括的性教育実施における教師の葛藤と、その原因を渋谷文子らが「Teachers' conflicts in implementing comprehensive sexuality education: a qualitative systematic review and meta-synthesis(包括的性教育実施における教師の葛藤:質的システマティック・レビューおよびメタ統合)」(2023年)で明らかにしました。
2010年から2022年までの包括的性教育の実施における教師の葛藤に関する11件の研究がレビューしたところ、11の研究はすべて、キリスト教徒が多い国で実施されており、研究の大半はアフリカで実施されていました。
研究の結果、包括的性教育の実施は、その国の状況に応じて複数の葛藤に関係していることが明らかになりました。
テーマ別メタ統合では、教師の葛藤の原因として、
(1)文化的・宗教的背景から教師が性教育について話すのをためらうこと
(2)従来の性教育が包括的性教育に統合されていないこと
(3)包括的性教育を教師が効果的にファシリテーションするための育成
(4)性教育を開始する適切な年齢の決定
(5)学校外の関係者の役割
の5つのテーマが挙げられました。
上記の結果から、教師は「性教育を行うべきである」という認識を持っているにもかかわらず、性教育はまだ従来・伝統的な性教育が行われていて、包括的性教育に変化していないことが課題として挙げられました。
包括的性教育を導入していくためには、国のカリキュラムだけではなく、実施する教師の研修やサポート、コミュニティにおける性教育の理解や連携も重要であることが示唆されました。
研究結果はまた、包括的性教育実施における教師の役割を明らかにする必要性を裏付けています。また、テーマ別メタ統合では、ヨーロッパとアフリカにおけるキリスト教の背景が強く反映されており、他の地域の宗教的背景に関するさらなる研究が必要であることが示唆されました。