包括的性教育は効果的ではない?~包括的性教育の誤解と効果を再評価~
- Asuka Someya
- 5月9日
- 読了時間: 3分
更新日:5月13日
学校での性教育は、若い世代の健康や人生を支える大切な学びです。その中でも「包括的性教育」は、避妊や病気の予防だけでなく、人との関係性や自分の心と体を大切にすることまでを含む、幅広い内容を扱います。
でも実は、この包括的性教育について「本当に効果があるの?」という疑問の声があるのをご存じでしょうか?
特にアメリカ以外の国で実施された性教育プログラムに関しては、「効果が不十分」とする意見が国際的に影響を与えてきました。その中でも注目されたのが、包括的性教育に批判的な立場をとることで知られるアメリカの研究機関「IRE(Institute for Research and Evaluation)」が2019年に発表した報告書です。この中でIREは、「包括的性教育にはあまり効果が見られない」と結論づけています。
これに対してケリー・ヴァントレックらは、「A reanalysis of the Institute for Research and Evaluation report that challenges non-US, school-based comprehensive sexuality education evidence base(非米国の学校における包括的性教育の証拠基盤に異議を唱える、研究・評価機関の報告書の再分析)」(2003)において、IREの報告書について詳しく調べ直す「再分析」という研究を行いました。
その結果、以下のような問題点が明らかになりました。
「包括的性教育にはあまり効果が見られない」としたIREの研究の問題点
✓研究の選び方が不透明である:
どのように研究を探して選んだのか、具体的な基準や方法が報告書では説明されていませんでした。
✓データの取り扱いに偏りがある:
中には包括的性教育の効果をきちんと測定していない研究も含まれており、それらも「効果なし」と評価されていました。
✓分析方法に偏りがある:
全体として包括的性教育のポジティブな結果を過小評価し、ネガティブな結果が強調される傾向がみられました。
✓データの読み取りミス:
取り出されたデータのうち、74%に誤りが含まれていたことがわかり、報告書の信頼性そのものが疑問視されました。
この研究によって、「包括的性教育には効果がない」という否定的な見解が、実は不十分なデータ分析に基づいていたことが明らかになりました。
特にIREの報告書は、包括的性教育への批判を正当化する上で、各国の政策や世論に少なからぬ影響を与えてきた資料であるため、その影響はとても大きいと言えます。
今回の再分析は、包括的性教育の有効性を再確認し、エビデンスに基づく政策形成や教育実践の必要性を改めて示すものです。今後、包括的性教育の効果を最大限に引き出すためには、教育現場だけでなく、政策や社会全体における理解と支援の広がりが欠かせません。性教育をめぐる議論においては、価値観の違いにとどまらず、科学的根拠に基づいた透明で公正な検討が求められます。
本研究は、そのような議論の質を高める上で、重要な一石を投じるものとなりました。