包括的性教育をすることで、性に目覚めていなかった子どもたちがリスクのある性行動を取るようになるのでしょうか?
FACT:適切な包括的性教育は、子ども・若者の性行動を促進せず、むしろ慎重化させます。すでに若者たちは、多くの性に関する情報をインターネットやポルノから得ています。
その詳細について、見ていきましょう。
✓包括的性教育は、性行動の慎重化につながる
日本では「寝た子を起こすな」、つまり、性について知らない子どもに、性教育をすることで、性的な好奇心が刺激されて危険だとして、性教育を疑問視する声もあります。
しかし、ユネスコ『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』によると、ユネスコらは他の国際機関とも連携し、これまでの世界で行われてきた性教育を調査し、包括的で科学的に正確な、年齢に応じた性に関する情報と教育の提供を提唱しています。
包括的性教育は、性行為を早まらせたり危険な性行動につながったりはしないと分かっています。むしろ、性について慎重に考えるようになり、初めての性行動を遅らせ、コンドームや避妊法を使用し自分やパートナーを守るための行動をする人が増えることにつながると明らかになっています。
2021年に発表された論文では、過去 30 年間の性教育に関する文献を調査した結果、性に対して肯定的で包括的なアプローチが有効であることが示されました。
逆に、避妊についての情報を与えず、「結婚するまで性行為をしない」と誓わせるような禁欲主義・純潔主義の性教育は効果がないだけではなく、逆に望まない妊娠や性感染症が増えるなどのネガティブな影響を与える可能性があることが分かっています。
なぜなら、避妊や性感染症予防の情報を得ることが難しくなったり、もし性について困ったことがあっても、先生や保護者などの大人に相談や質問ができず、誤った知識や認識を持ってしまう可能性が高まるからです。
✓性教育がなければ、友達やインターネット、ポルノから性を学んでいく
包括的性教育がない状況では、子ども・若者たちは、友達やインターネット・SNSなどのメディア、他の情報源から性の情報を得ていきます。
2023年のジョイセフの調査によれば、10代後半~20代の若者の性についての情報源として、半数以上が「ネットやSNS」と回答。男性では、「アダルトビデオ・サイト」33.7%「友だち」30.6%、女性では「友だち」37.0、「恋人・パートナー」30.8%の回答が次いで多くありました。
現実には、性についてよく知らない子を狙って、性的な搾取をする大人もいます。
友達やメディアからの不確かな情報は、科学的に不正確な情報や、暴力的で有害な情報も含まれ、性に関するリスクに対して無防備な状態になる可能性があります。
✓どんな性教育が効果的?
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、子ども・若者たちに年齢・発達段階にあわせて、科学的に正確な情報を伝え、「~するべき/するべきではない」といった道徳的な価値観の押し付けないことが重要であるとしています。
性教育といっても、性行為に関することだけではありません。包括的性教育では、子ども・若者たちが必要な思春期、人間関係、ライフスキルなどの内容も含め、子どもたちが性的な関心を持つ前から、学校のカリキュラムの中に組み込むこと、そして、年齢・発達段階にあわせて注意深く、段階的に繰り返し学んでいくことで、その効果がさらに高まるとされています。
WHOも包括的性教育に関して、
“適切に設計・実施された包括的性教育プログラムは、性の健康に関するポジティブな意思決定につながります。若者がセクシュアリティ、関係性、および権利について十分な知識を持っている場合、性行為を開始する時期が遅くなり、性行為を行うときにはより安全な行動をとる可能性が高くなるということが分かっています。”
としています。
✓つまり、包括的性教育は「寝た子を起こす」のではない
子ども・若者たちが性的な関心を持つ前から、安心して性に関する情報を得られる環境を作ることで、子ども・若者たちが性に関する危険から身を守る知識やスキルを得て、自分らしい人生を実現することにつながっていくものであると分かっています。
【参考文献】
Eva S. Goldfarb, Lisa D. Lieberman, Journal of Adolescent Health
Volume 68, Issue 1, 2021, Pages 13-27 , "Three Decades of Research: The Case for Comprehensive Sex Education"