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日本の性教育はどうなっているの?



国際的なスタンダードである包括的性教育から遅れをとっているといわれる日本における性教育。学校ではどんなことを教えていて、どんな課題があるのでしょうか?


✓性交・避妊に関して「はどめ規定」がある日本の性教育


日本では、1992年が「性教育元年」と言われ、保健の教科書が出るなどして小学校からの性教育が本格的に始まりました。しかし、2000年代に「性教育バッシング」が起こり、性教育について学校で積極的に教えづらい風潮が今なお続いています。


学校では、文部科学省が出している学習指導要領に基づき、保健体育、道徳、特別活動などの科目で、下記のような性に関する指導をしています。


●小学3・4年生
男女の体の発育・発達、初経と精通、異性への関心 など

●小学5年生
命の誕生、感染症 など

●中学1年生
生殖にかかわる機能の成熟
異性への尊重や適切な行動について など

●中学3年生
性感染症 など

●高校生
妊娠・出産、家族計画、人工妊娠中絶、性感染症 など

2000年代におこった保守政治家・宗教右派らによる性教育バッシングを背景に、小学5年生の理科で「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」といういわゆる「はどめ規定」が作られ、以来、小・中学校では性交や避妊については基本的には取り扱わないとされています。


そのため、中学校では、性感染症の感染経路も「性交」「性行為」ではなく、「性的接触」という言葉で説明されています。また、「異性への関心」など、異性愛が前提となっており、多様な性のあり方については学習指導要領には含まれていません。



✓性行為や避妊は学校では教えられないの?


小・中学校におけるはどめ規定について「決して教えてはいけないという主旨ではなく、地域や学校の現状に合わせて取り扱ってもよい」とはされていますが、一方で、保護者や地域、学校全体での理解を得ることや、集団教育と個別指導を組み合わせるよう求めており、実質的には踏み込んだ性教育を行えていない学校がほとんどです。

日本の中学校での性教育は平均で年間3時間程度で、他の国と比較しても、時間数が十分ではないことが調査でもわかっています。


2023年10月の日本世論調査会がまとめた調査によると、「はどめ規定」をなくすべきだとの回答は88%に上ったとのことでした。

その理由として「正しい知識を得られるから」が44%と最も多かったそうです。



✓地域や学校によって性教育に注力しているところも


たとえば、秋田県では、10代の中絶の対策として、秋田県教育庁・秋田県教育委員会では、秋田県内の中学校・高校での性教育講座事業を独自に実施しています。秋田県医師会などの協力のもと、中学校においても性行為や避妊についても取り上げるスライド教材を作成して講座を行っており、事業開始から秋田県内における10代の中絶率が大幅に減少し、現在も20年以上にわたり続けられています。


また、学校によっては、助産師や産婦人科、NPOやLGBTQ支援団体などの外部講師による講演を開催しているところもありますが、学校のカリキュラムの中に性教育を位置付けているのは、日本ではごく一部の私立の学校に限られています。



✓2021年から「生命の安全教育」がスタート


性犯罪・性暴力対策の強化について:文部科学省 サイトより


政府は「性教育」とは言っていませんが、子どもが性暴力の被害者、加害者、傍観者になることを防ぐことを目的に、2021年から「生命の安全教育」がスタートしました。


これは、内閣府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を踏まえて、全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学などで、水着で隠れる部分(プライベートゾーン)は自分だけの大切なところであることや、デートDV、SNSの使い方、性被害にあったときの対応なども含めて学ぶものです。


しかし、これらのプログラムも学習指導要領に基づくため、性交については触れられていません。また、小学校でも水着で隠れる部分(プライベートゾーン)は自分だけの大切なところと学ぶ一方で、性器の機能や名称については、取り上げられていません。

包括的性教育と比較して、からだの自己決定や同意・性的同意についてポジティブに学んでいくことも余地があると考えられています。



【参考文献】

茂木輝順, 久保田美穂, 池谷壽夫, 橋本紀子, 関口久志, 森岡真梨, 田中和江, 加野泉.

(2022). 日本の中~大規模中学校の教育課程 における性教育の位置付け, 現代性教

育研究ジャーナル, 136, 1–11.

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